1990-03-01から1ヶ月間の記事一覧

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「私にはこの村の管理者で無かった頃の記憶がありません。というより、恐らくそのような時期がそもそも存在しなかった。きっと私は初めから今の私のような姿かたちで、この『暁の村』の管理者として智様に定められて存在していた。俗界を創られた智様に定め…

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反応はすぐにあった。 「自分が言っていることの意味は、お分かりですか?」 「勿論」 「馬鹿な!」 はっきりと頷いてみせた亮に、一度は声のトーンを落とした少女が吐き捨てる。 「仮にも管理者を務めてきたこの私が、自ら率先して神界と俗界の別を破るなど…

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‡ 「そら、腹ががら空きだぞ!」 巨大な獣の身体が宙に放物線を描き、そのまま墜落して辺りの玉砂利を撒き散らして、跳ね上がった砂利がいくつか、四肢に当たって弾かれる。 「これでもう何度目だ? 他人に空飛ばしてもらうのがそんなに面白いか?」 「うる…

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突然の出来事に智は歓喜の笑みの残滓のような物を僅かに、不気味に頬のあたり残したまま動かず、亮も、「飛鳥」を放った「暁の巫女」たる少女も、何も語らず、動きもしない。それは徹と凛にしても同じことで、奇妙な静けさが辺りを覆った。 さすがと言うべき…

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「かっ……!」 玉砂利を敷いた地面に叩きつけられ、空気を吐き出す智の身体を、潰さない程度に徹が押さえつける。徹の背中に乗っていた凛も智から目を離さず、とん、と身軽に地表に降りて、亮と少女も控えめに、その数歩後ろまで近寄って状況を見守る。 「は…

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少女が今心の底から笑えていないなら、いずれ、それができるようにすれば良い。そんないささか大仰な気もする心積もりを胸に、その初めの一歩のつもりで亮はその一言を口にした。 その直後。 ……あれ? 「……面白くないな」 呟かれたその一言と、亮自身の意識…

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「クソ、始まりやがった!」 悪態をついた徹が早口に何か言って獣の姿から人の姿に戻ろうとしている最中、遠目に亮が、萱葺の家が三軒、真っ直ぐに並んでいると見たところが、一秒と経つか経たないかの内に、瞬く間に暗闇の中に飲み込まれた。 「暁の巫女」…

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† 精密機器に生活空間を侵略されたかのような部屋の中、今の今まで使っていたマイクの電源を落として芹山は長いため息をついた。 「これで無事、あのもと管理者はあの坊主の奴隷になることもなく俗界から出てきた。これで満足かね?」 言った智の視線が、部…

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† 「お箸ちょうだい」 「ん」 差し出された凛の手に、徹は菜箸を手渡して、再び、既に用を終えた鍋やらヘラやらを洗う作業に戻る。その横で凛がグリルの戸をあけて、二人のたつ台所に鰤の塩焼きの食欲をそそる香りが立ち込める。 「それをひっくり返して焼き…

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† 頭の中で、唄が聞こえていた。 唄といってもそこに歌詞らしいものは一切付随せず、軽く聞いただけならばそれが人の声であることすら判然としない、どちらかといえばいくつかの楽器を組み合わせた音のように聞こえた。澄み切って清涼感さえ感じられるその曲…

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† 「あーもー、これどう頑張っても式には間に合わないな……。成績表だけもらえりゃとりあえず良いけど……」 (よく分かりませんが、そんなに急ぐのですか?) 「急ぎも急ぎ、大急ぎだよ」 一気に掻き込んだ朝食の咀嚼もままならないまま部屋まで駆け上がり、言…

18年後から今日は

茄子 魅せるなあ。心理描写しかり、状況描写然り、バトル漫画にない魅力があるなと。一方で学校が舞台のスポ魂ではなくて、笑わせてもくれるし、落ち着いて眺めることも出来る。で、最後にはああ、なんか運動したくなってきたと思わせてくれるし。好きだなあ…