Cube

〜9〜②

……… ………… …… 「おいミシェル?お〜い」 「ん……なに?」 「なにって……。もうすぐ二時間目始まるぞ」 背中からかけられた声に、ミシェル・チェインズはもぞりと、起き上がった。顔をあげて前を見れば、丁度教壇の上に教師が上ろうとしている。慌てて、淡い金髪…

〜9〜 ①

「ほらあ、遅いわよ!」 「すみません!」 朝早く。珍しくさっさと準備を整えたチェロにせかされてマークが叫んだ。目の前には図書館保有の任務用4WD。運転席にはチェロが座って窓から顔をのぞかせ、後部座席にはミンレイとシーナが座っている。 「すみませ…

〜8〜

〜8〜 俺の名前はシーマ・ガリウス。国立図書館の表の顔。純粋な図書館の司書をしている十五歳。黒でもなければ赤毛でもない。こげ茶の髪を実は気に入っている。 いまさらかもしれないが、本当はこんな退屈な仕事はやりたくない。本当は作戦部のほうにまわ…

〜7〜完結

……… ………… …… 「……」 部屋のベッドの上に寝かせたシーナの横に椅子を置いて座り、その顔を覗き込む。 よく寝てる。 図書館に来てからのシーナにも変わらずにあるものがあった。そっと目を閉じ、すこし開いた口から寝息が聞こえる。昔から、どうしてあれだけの…

〜7〜その2

……… ………… …… どれほどたったのだろうか。しばらくして方をそっとゆすられる感覚でマークは目を覚ました。 「ついたわよ」 ようやく目を開けたマークの顔を覗き込んでいたミンがそういうと、ささりっぱなしにしてあったハンドル脇のキーを抜く。マークも欠伸…

〜7〜

「……今日はまだチェロさんこないね」 朝食時。いつものように半獣とそのリーダー達だけで一つのテーブルを囲む中に、これまたいつものように一つだけあいた席があった。マークの声と共にその視線がその空席に注がれると、横に座るミンレイは何も言わずに席を…

〜6〜(後編)

……… ………… …… 国立図書館の職員達には、各々一室ずつ部屋が与えられている。一般職員は基本的には洗面台がつき、大きめの箪笥とベッドと机を置いて丁度いいくらいのものでさして広いわけではないが、一人だけ、部屋とオフィスを一つにしているメディスだけは…

〜6〜

〜6〜 「…きて……起きてください……」 朝。朦朧とした意識に誰かが呼びかけている。ベッドの上で布団に包まった彼女は、ずきずきと痛む頭に手をやりながらうっすらと目をあける。 「……水ぅ」 「どうぞ」 布団から後ろ向きに手を伸ばすと、硬く冷たいガラスの…

〜5〜

〜5〜 (時間をつぶせって言われてもな……) 厨房でもらってきたティーパックとポットを手に、真新しいカップの中に湯を注ぎこむ。その中に紙の包みから出したティーパックを沈めてやると何かが漏れ出すかのようにカップの中が赤く染まり、薄紅色の渦を描い…

〜4〜

〜4〜 朝。さして広くもない部屋に一つだけ開いた部屋の窓、カーテンの隙間から都会の朝日が差しこむ。ほっそりと差し込んだその光は部屋の中をうっすらと照らし、部屋の壁にそって置かれたベッドを浮かび上がらせた。と突然、ベッドの上を完全に覆い隠して…

〜3〜

〜3〜 掃除の行き届いた部屋の中。壁際に置かれたベッドと机。ある程度使い込まれているのだろう、よく見れば所々に小さなしみが目に付く白い壁紙に手を這わせながら、マークはゆっくりとベッドの淵へと歩を進めた。 混乱しているせいだろうか。妙にこめか…

〜2〜

〜2〜 あちこち不ぞろいな石を敷き詰められた通りを、二人の男を乗せた車が走っていた。一人は背が高く、髪をしっかりと固めた若者。もう一人は無精ひげを無様にたくわえた体のがっちりとした中年男性だった。二人の格好も車も、西側の人間にしては随分と上…

〜1〜

それはどうということの無い一日の始まり。いつものように空から日が差し、どこからともなく小鳥の囀りが聞こえてくる。そう、ごくごくありふれた一日の始まりだった。 「……朝か」 いつもどおりの決まった時間。まだ僅かに重い瞼をうっすらと開けてマークは…