暁の巫女がうたうころ

『暁の巫女がうたうころ』表紙 第一章 http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900130 第二章 http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900129 第三章 http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900128 第四章 http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900127 第五章 http://d.hatena.ne.…

一章

第一章 どこだ、ここは。 渡来亮は見たこともない光景にキョロキョロと辺りを見回した。いや、もしかしたら見たことはあるのかもしれない。しかし仮にそうだったとしてもそれがわかる人間はそうは居ないだろう。そこはそれほど深い森か林の只中で、冷たい風…

二章

第二章「ん……」 それは真っ暗な部屋に小さな明かりが灯るかのように、宙をさまよっていた亮の意識はゆっくりと覚醒した。 あれ、寝ちまったか…… 身を起こして立ち上がる。梅か桜か、淡い赤の花が描かれた襖を開き、隣の部屋の障子張りの襖の隙間から見れば空…

三章

第三章 亮は転ばぬよう最低限の注意ははらい、しかし決して加減の色は見て取れぬほどの限りなく全速力に近い速度で石段を駆け下りていた。もともと拷問の類ではないかと疑うほどに長く、かつ急勾配を誇る石段だ。しかも山道の石段にありがちな足場の狭さを忠…

四章

第四章 ……眩しい。瞼越しに感光する眼球は重く、妙に耳鳴りもする。全ての感覚が、まるで今まで凍結されていたかのように不自然で、体全体が妙に重苦しかった。 「……」 ゆっくりと、瞼を開く。まるで誰かに抑えられているかのようにずっしりと重い瞼をゆっく…

五章

第五章 ここはどこだ…… 相変わらずの真っ暗闇の中。開いた目でぐるりと辺りを見回す。 唯一つ、さきほどまでと違うのは、空間に壁らしいものが一つもないところ。足はたしかに何かの上に立っているのだが、その場所に床はなく。ただとりあえずの足場があるだ…

終章

終章 頭の中で、歌が聞こえる。 柔らかい音色は人の声でありながら、そこには歌詞、旋律に乗せられた言葉が無い。 それはまるで変わった楽器のような音。 そこにあるのは、繊細に空気を振るわせる音色と、清い流れのような旋律。 ―― 「ん……」 朝、まだ深いま…