籠目籠女

目次 序「語る者」・壱「籠女」:http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900123 弐「籠目」:http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900122 参「夜明けの晩〜明けない夜」:http://d.hatena.ne.jp/erinyes/19900123

壱:籠女「では、そういうことで。」 そう、私の前に立つ男が言う。いかにも小男らしい、細い身体に立派な着物を着込み、洒落たつもりか、口元に生やした髭が嫌悪感を駆り立てる。手には緊迫を散らした群青の扇子。この辺りでは手に入らない、藍の鼻緒の下駄…

・序:語る者 そこは、暗かった。暗い、暗い、部屋だった。光は一つ、中央にともされた一つの蝋燭。ただ、それだけ。故に、壁は見えず、床の果ては知れず。ただ、ぼんやりと朱い光の中に、幾人かの人影だけが、見て取れた。 男、女、小さな者から、大きな者…

弐:籠目その日は結局それ以上のことは何も無く、通された部屋の中で、私はただ、ぼんやりと膝を抱えて、隅の方に座り込んでいた。……いや、これはちょっと部屋とは呼べないかもしれない。むしろ、牢獄だ。畳も敷かれず、むき出しの上に塵や埃でざらざらと不…

参:夜明けの晩〜明けない夜私がここにきてから十日がたった。別段変わることは無い、日常。部屋の状態こそひどいけれど、雰囲気の問題だかなんだか、一応毎日着物は洗わされるし、着替え用の着物も一枚もらっている。毎晩身体も洗えて、朝晩に食事も出来て…