1990-01-23から1日間の記事一覧

壱:籠女「では、そういうことで。」 そう、私の前に立つ男が言う。いかにも小男らしい、細い身体に立派な着物を着込み、洒落たつもりか、口元に生やした髭が嫌悪感を駆り立てる。手には緊迫を散らした群青の扇子。この辺りでは手に入らない、藍の鼻緒の下駄…

・序:語る者 そこは、暗かった。暗い、暗い、部屋だった。光は一つ、中央にともされた一つの蝋燭。ただ、それだけ。故に、壁は見えず、床の果ては知れず。ただ、ぼんやりと朱い光の中に、幾人かの人影だけが、見て取れた。 男、女、小さな者から、大きな者…