3-8

「ふふっ。まだ動くのね。面白い」
 朝。しかしこの町においてその単語は爽やかなイメージとは決して重ならない。白い空、光の届かない路地。瓦礫の山。そんな中で、少女は笑っていた。
 手にしたのは、突撃槍。全てを貫き、塵と成す。その先にあるのは、男であった物。衣服は赤く染まり、それが乾いて固まり、手も、足も、まともに原型などとどめていない。指は折り曲げられて手の甲の上に乗り、足首はねじ切られて皮一枚でつながり、そしてその背中の中央に一つ、人の身体に開くにはあまりに大きい、穴があった。
「いつまで動くのかしら。ねえ、貴方、生きてるわけではないのよね?」
 言いながら、何度も、少女は自分の得物をその穴めがけて突き落とす。そのたびに、とうの昔に息絶えているはずの男のからだは痙攣し、首がビクビクと跳ね上がる。それが、とても面白い。
「貴方も、これくらいなんども私のこと突いたんだもの、おあいこよね?」
 笑いながら、突く、笑う、突く、笑う、突く……。
 そのとき。ふと、声が聞こえた。
「……無残な。目も当てられん」
 低い、今までに聞いたことのない男の声。聞こえてきたのは遥か上空、すぐ背後の建物の屋根の上から。辛うじて表情が読み取れるか否か、という高さに立った、蒼いマント姿の男と、それを見上げたアルテメネの目があった。
「娘。貴様か……これは」
 男が言った直後。アルテメネの意志に反して、握り締めようとした槍は、はじめからそこに無かったかのように崩れ落ちた。