3-7

「あった。ここだわ」
 東の空は、少しずつ白んできている。漆黒に彩られていたドレスを今や、その半分近くを血の赤に染めて、ブーツは赤い足跡を地面に残し、頬には化粧のように一筋、血の線を引いて、アルテメネは細い壁と壁の隙間を見つめていた。
 忌まわしい記憶の、一つの終結点。破滅が、明確な形として現れたこの場所。憎むべき罪人たちが、この先にいる。
 しかし
「ねえ、貴方達?どうしてこの道が塞がれてるの?開けなさいよ」
 優しく、しかし聞くものが聞けば背筋が凍りつく声で、そっと語りかける。そう、多田でさえ人一人が辛うじて通れるほどしかなかった細い通路は今や、どこから集めてきたのか、ガラクタや金属板で絶対に通れないほどに塞がれていた。
「誰が開けるか、このバケモノが!」
 返ってきたのは、震えきった男の声。あの夜、最初にアルテメネに触れた男。
「俺達の耳を馬鹿にするんじゃねえ!血だらけの女が物騒なモン持って近づいてくるって聞いたら、誰だって逃げるだろうが!」
 ついで聞こえてきたのは、アルテメネの髪を鷲掴みにして弄んだ男の声。
「あら、知られちゃってたの?残念」
「残念じゃねえ!さっさと失せろ!」
「こっちはお前ほど暇じゃねえんだ!」
 小さく微笑んで言った声に答えたのは、最後までしつこくアルテメネを弄び続けた男と、完全に脱力したその身体を蹴って表通りまで運びだした男。
 大丈夫。四人ともいる。
 内心で、ほっと息をついた。一人でもすでに捕まっていたとしたら、この業は終わらない。全てを、自分の手でやらなければ気がすまない。だから、それができることに心底安心した。
「……そうね。貴方達、嫌っていうほど私のこと突き倒してくれたし。私も貴方達のこと、突き殺してあげるわ」
 言って、目を閉じる。わめく野盗の声は無視して、想像する。
 それは、話に聞いたことのある、異国の騎士の突撃槍。ランス。もちろんそれほど大きな得物を自分が使えるわけが無いので、サイズ、重量は多少加減。そして目を開き、創造された得物と、目の前の壁とを見比べる。
「できるかしら?」
 つぶやいて首を傾げてみてから、創造する。
 この得物に、貫けないものなど無い。全てを貫き、全ての壁を払う絶対の槍。この得物に、貫けないものなど、
「無い!」
 叫んで、黒光りする金属板に渾身の一撃を叩き込む。少女の細腕で打ち出されたその力は決して強くは無いはずなのに、しかし重厚な臨時の防護壁は、確かにその一突きで突き崩され、刺突の先にいた男の一人が、腹に人の拳ほどの風穴を開けて吹き飛んだ。
「さあ」
 瓦礫を踏み分けて、アルテメネが言う。
「貴方達には鳴く暇も上げないわ。絶大の痛みで、叩き潰してあげる」
 相変わらず、そこだけは清く輝く銀髪の下で少女が笑った。