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「ほら、もう着いた。結構近いでしょ?」
「ん、確かに」
 インターホンの下のカバーの中で、キーロックのナンバーを押しながら言う陽菜。程なくして、一戸建ての家にありがちな、そしてマンション住まいの晋治にはあまり縁のない小さな柵が開いて、そのまま数歩、真っ直ぐ、玄関の前まで招き入れられる。
「ふん。昼寝には丁度良さそうな庭だ」
 足元では、小さな身体で精一杯に胸を張って、キョロキョロとあたりを見渡している白猫……又。よほど色々聞きたいのか、その小さな姿に何度も目をやりながら、心持ち浮き足立って玄関の鍵を開ける陽菜。真っ白い家の壁に、赤茶色の鮮やかな扉。見慣れない玄関の光景。
 ……ちょっとまて。
 ここにいたってようやく、晋治は自分の置かれている状況を顧みる。
 だって、……まあこの際理由には一度目を瞑るとして、目の前にいる藤崎陽菜は、いくら仲が良いといってもクラスメイトの女子で、ここは彼女の自宅で、しかも小学生同士ならばいざ知らず自分達は高校生で。……ついでに言えば、晋治と陽菜以外の人間には、もう一人の当事者であるこの傲慢な猫又の姿は見えていないわけで。
 これは……。
「何してるの?早く上がって」
「あ、お邪魔します……」
 今更気後れしかけたところに声をかけられて、急かされる前に家の敷居を跨いでしまった。気付けば背後で静かに扉が閉まっていて。これでもう、引き返せない。
「あら、いらっしゃい。どなた?」
「同じクラスの加藤君。今ちょっと秋の部誌を作るのに協力してもらってて」
「どうも、お邪魔します」
 雰囲気のままに腰が低くなる自分が恨めしい、と、気持ち悪そうに眉を潜めて見上げてくる小さな居候の視線を感じながら思った。
「こっち。着いてきて」
ゆっくりしていってね
「あ、はい……」
 ああ、階段の一段一段がやけに高く感じる……。