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「さて、どこに行こうかしら」
 少女、アルテメネはつぶやく。今、その身があるのは表通りを外れた裏通りの片隅。ほんの一瞬前、はるか頭上で自分の行いに他人が感嘆の声を上げたことなど彼女が知るはずも無く、物陰で着替えた新しい服を夜風に揺らしながら、どこへ、というわけでもなく、ただなんとなく歩く。
 夢のようだ。自分がこんなものを着ることができる日がこようとは。長く夢に見続けて、もう届かないと切り捨てて、ついさっきまで、そんな夢にすがっていた自分をなじっていたところだというのに。それが、現実になってしまった。否、現実にしてしまった。夢のようで、信じられなくて、それでもこれは現実なのだ。
 とりあえず何をしてやろうかしら。
 アルテメネは考える。不思議と、今ならできないことは無い気がする。理由はわからないけれど、自信がまさに満ち溢れている。そこらの人間になど、何をしても負ける気がしない。周りの者が、物に見える。そんな気分だ。この力を、何に使ってやろうか。
 そして、そうだ、と、思いついた。
 そうだ。今ならば、今ならば自分には力がある。物がある。無かったものがある。
 ならば
 昨日までの忌々しい記憶を、力無き故に、物無き故に従い続けた下郎共を、憎むべき苦しみの記憶を、拭い去らずにいかにする。
 向かう先が決まれば、自ずと歩は早まる。
 まずはかつての雇用主を、次に黒尾の野盗を、その後で、思い出したくも無い、痛みと、苦しみと、白と赤、夜闇の記憶の元凶を。順に、片端から、逃さずに。
「決まり。そうしましょう」
 つぶやいて、さらに歩みを速める。銀髪が寒風に揺れて、くすんだ空気の中で輝く。その光を視界の隅で捉えて、ふとアルテメネは思った。
 そうだ。この髪を馬鹿にしたあの男も、最後に叩き潰してあげなくちゃ。