其之六拾

……
…………
………
「なっるほど…」
全てを聞き終えた後で、芹山は空になったカップを片手に天を仰いだ。
「そりゃずいぶんと重いな……」
「ああ…」
妙に神妙になった芹山につられて徹まで黙り込む。
「…でもさ。お前のご両親、ずいぶん簡単に許してくれたんだな。お前の話を聞く限りじゃあもっと……なんつーか…」
「冷酷?」
「……まあそれが一番近いか」
徹がだした助け舟にしばし迷ってから乗りかかる。
立ち上がって2杯目のコーヒーを注ぎながら芹山は続けた。
「実際どうなんだ?お前からみて、さ」
「……どうなんだろうな」
「何?」
「いや、後で俺も不思議になって母さんに聞いてみたんだけど…。『あそこで断ったらこっちが悪者じゃない。凛ちゃんもこの調子じゃただの家出少女ってわけじゃないんでしょ?』とか言ってたし」
しかし一方で夕方の家出少年特集などを見ては批判的かつ鋭い言葉を容赦なく口にしていたのも確かなわけで……
「正直、俺にもよくわからない」
そういって、冷め切ってしまった最後の一口を飲み干した。
「まあ……オッケイ。そういうことなら協力は惜しまないよ。任せな」
「ああ、助かる」
珍しく素直に、落ち着いた様子で礼をいう徹にすこし意外そうな顔をすると、部屋の隅においたノートパソコンを手に取る。
「でも…お前も最低限の注意は払えよ?なにぶん噂の力はすごいから……」
そういいながら、インターネットプラウザの中、ブックマークリストの一つにカーソルを合わせる。
「とくにウチ見たいな一部の私立校の場合、こんな掲示板もあるからな」
「ああ、『掲示板群』ね」
インターネットの掲示板、しかも学校専用となれば学校中の情報が簡単に手に入る場所だ。今はただの噂ですんでいても、それに少しでも信憑性を持たせる情報が漏れれば……。誰かがすぐさまここに書き込んで、学校中もちろん学校側にも知られてしまうだろう。
(たしかに、気をつけなきゃな)
「じゃあ、俺はそろそろかえるぞ」
もう一度強く決意してソファーから立ち上がろうとしたそのとき、芹山が片手を徹の目の前にかざしてそれを止めた。
「…なんだ?」
「ちょっと…遅かったかもしれない」
ぐっと低くなった芹山の声に、食いつくようにして芹山のパソコンの画面を覗きこんだ。
『中一、公式テニス部の鷹峰は、入学直後に両親を失くし、今は一人暮らしをしているらしい。たしかウチの学校の入学条件に、共に暮らす保護者がいることってあったよね?』