『そう君』小話

4 一月三日

「ごちそうさま」 「俺もごっそさん」 時刻は七時過ぎ。丁度夕飯が終わった頃合の、夏目家食卓であった。 「しかしまあ、これで三箇日もおしまいか」 「優さんは明日からまた?」 「仕事だよ。まったく、学生の頃が懐かしいな。うらやましい」 湯のみのお茶…

3 一月二日

「おおやってるやってる。今どの辺だ?」 「ん〜、二区の後半入ったところ」 「ん? へえ、結構差、開いてるな」 「でもまだ二区だし……分からないよ」 「まあ、確かに。……しかしだな、なんで初詣には疲れるから行かなかったくせに、駅伝の観戦にはいくのかね…

2 元旦初詣

「……よし。初詣も終わり」 元日、込み合う神社の境内、本堂の、大きな賽銭箱の前に二人はいた。 ベージュのロングコートを羽織った徹と、黒いコートと赤いチェックのマフラー姿で、波打つ金髪を垂らした凛と。少しばかりあやしい空模様のなか、冬の風がおた…

1・大晦日

大晦日。午後八時。夏目家にて。 台所が、騒がしかった。 「凛!醤油取って!」 「はい!それともうすぐ牛蒡が上がる!」 「そしたらあっちの胡麻と……」 聞こえるのは、木ベラがフライパンの底をこする音に、急に冷やされた圧力釜が鳴らす笛のような蒸気の音…