「……よっ」
「わ……っと」
 突然後ろから背中を叩かれて、着物姿の徹が勢いよく振り返る。振り返って、その先に久々に目にする兄妹の姿を見て、突然の再会に思わず一瞬言葉をなくした。
「三木先輩じゃないですか!それに佳織も」
「久しぶり」
「お久しぶりです」
 花火の上がるほうに向けていた身体の向きを百八十度変えて立ち上がる徹に裕行が片手を上げて応え、なおもたこ焼きを口に運ぼうとする裕行の手から爪楊枝を取り上げた佳織が頭を下げる。当然、巴、優、それに凛の三人も何事かと振り向いて、目があったとたんに凛と佳織は二人だけで話に花を咲かせにかかってしまった。
「先輩達も来てたんですか」
「まあな、行けない距離じゃないし」
 確かに、その通り。位置的には若干三木家の方が春日家よりもこの川から遠いものの、その距離はたかが電車で二駅。しかもその二駅とは都心を走る、一区間二、三分という電車に置いての話。徹たちにとって遠くない距離ならば、裕行や佳織にとっても同じこと。
「でも、何でまた兄妹そろってなんですか?昔ならいざ知らず、佳織ももう大学生だし先輩なんかもう大学も四年じゃ……」
「兄妹水入らずできちゃ、悪いか?」
「え……いや……」
 真顔で言われて、口ごもる。もちろん悪くはないが、普通大学生の兄妹が二人きりでこういうところには……来るのだろうか?まして、三木兄妹は仲が悪いわけではなくても、自然に二人だけで出歩くような図は、少なくとも徹から見れば想像しがたいものがある。
 ううむ、と言葉を捜しがてら花火を見上げて悩む徹。と、真顔でそれを観察していた裕行が突然ブッとふきだした。
「いや、ハハハ……。冗談だ、冗談。さすがに俺達、そこまで恥ずかしいことはしない」
「……勘弁してくださいよ、ホントに」
 凛との話に夢中で佳織に聞かれていないのをいいことに大笑いする裕行。どうやら、久々の再会でいきなり徹は見事にはめられたらしい。
「本当はこのあと、これが終わったら俺の代のテニス部員で食事でも、って話になっててな。ついでだからあいつもつれてきたんだよ」
「ああ……」
 なるほど、と答えて思い返す。
 そういえば、西谷とも、丸山とも、久しく会っていない。裕行とはまだ佳織と凛がいたおかげで去年までは時々顔をあわせもしたものの、他のメンバーとは徹の引退以来だから三年ぶりということになる。自分の引退以来部に顔を出していない者とは五年ぶりだ。
「ああ。なんならお前も来るか?時間は丁度この花火が全部終わった後。渉の奴がバイトしてた店があってな、そこでやることになってるんだけど」
「そう、ですね。お邪魔するかもしれません」
 どうせなら凛も連れて行きたいし、それなら凛に確認を取ってからの方がいい。
 それでもまあ、悪くはないか。
 そう、思った。

「じゃあ、俺らはそろそろ行くわ」
 一通り談笑した後、ビールが入ったせいかやたらと笑いながら絡んでくる巴から逃げながら裕行が言った。まだ花火はもう少し続くとは思うが、酔った巴の扱いがいかに大変かは徹も重々承知なので止めようとはしない。佳織も同じなのだろうか、凛になにかそっと耳打ちしてそばを離れる。
「それじゃ、気が向いたらまた後で」
「はい。他の先輩方にもよろしくお願いします」
「お先に失礼します。凛も、またね」
「うん、また」
 互いに言葉を掛け合って、分かれる。さすがに慣れたのであろう、ご機嫌な巴の相手は優がしていて、困ったように笑う優の頭を抱え込んだ巴が、メタルブルーのフレームの眼鏡を奪い取って笑っていた。