ワナビスレにアップされた画像に触発されて夜中に眠い目をこすりながら書いてしまった。今は酷く公開している
『月曜日の来訪』
目覚まし時計の音がうるさい。
布団を頭の上まで引っぱりあげて電子ベルの抗議に耐えながら、俺はベッドの上を転がる。
眠さの原因はわかっている。それはもう、いやというほどに。毎度の如く、夜更かしの度が過ぎた、という話。日曜日の夜に翌朝のことを考えずにパソコンの前に座るから、必然的に毎週月曜の朝はこうして重い頭で目覚ましの騒音と格闘しながら少しでも長く寝転がっていようと足掻かなければならなくなる。そして、思うのだ。
いっそ月曜日なんて来なければいい。そうすれば日曜日の夜更かしだってし放題だし、月曜が無ければ火曜もないし、水曜も木曜も金曜も来ないから、ずっと休日? ……ヤバイ、それ最高。
よし、決まり。俺の月曜日、来るんじゃねえ。帰れ。今日はまだ日曜日、明日もまだまだ日曜日。その先も、そのまた先も……。



コンコン



そんな幸せな妄想に俺が浸っていた最中、随分と大人しい調子で部屋の扉がノックされた。
……いや、しかし油断してはいけない。
俺は思いなおす。誰だかは知らないが、我が家で誰かが朝起こしに来る時はこんな生易しいもんじゃない。勢い良く扉を開け放って、冬の最中にも関わらず掛け布団を剥ぎ取り、部屋の窓を開けて人を寒さであぶりだすという羅生門顔負けの荒業で片付ける物なのだ。それが今日に限ってこんなふうに大人しいというのは……絶対ろくなことじゃない。おおかたよほど家族の誰かの機嫌がわるくて、穏やかなノックにつられて顔を出すと容赦のない拳骨が飛んできたりするに決まっている。
「……」
俺は息を潜めて様子を窺う。ことによっては武器に、と、相変わらずうるさい目覚まし時計を握り締めて。逃げ出すときのために、いつでも掛け布団語とベッドから逃げ出す体制はととのっている。さあ、どこからでもかかってくるがいい。
と、
「あの、スイマセン。その……失礼します」
 聞き覚えのない声。
「……は?」
 何事かと布団の隙間から様子を窺うと、何度も乱暴に開け閉めされて時々軋む部屋の扉が、恐らく今日までで最も行儀良く、ゆっくりと開かれていく。
 まず最初に見えたのは白いニットのベレー帽。その下では横一文字に切りそろえた後で毛先を跳ねさせたような、綺麗な黒髪が揺れている。クリーム色のセーターには太陽の下で踊るチューリップが描かれていて、その下にはいた赤茶色のロングスカートが足の動きに合わせて前後に揺れる。突然の見知らぬ来訪者は体の前で手を重ね、どこか申し訳なさそうに縮こまると、ピンか何かで留めているのだろう、左右に分けた長い前髪の間から困ったように眉をまげて、布団の中の俺に向かってつぶやいた。
「あの……ごめんなさい。来ちゃいました」
「いや……、は? どちらさま?」
 それはまあ突然女の子が尋ねてきたらそれなりに思うところがないわけではないけれど、一応目の前にいる彼女とは何の面識もない……はず。そう思って、とりあえずベッドの上に座り、布団から顔だけ出して俺が尋ねると、彼女の方は、
「あうっ……! ごめんなさい! 忘れてましたっ」
 なにやら慌ててベレー帽を脱ぐと、真赤になって誤りながらその中を引っ掻き回す。程なくして、目的の物は見つかったらしく、彼女は小さく「あった……!」とつぶやいてその名詞を両手で差し出してきた。
「『げつようび』……月曜日?」
「はい、その……月曜日、来てしまいました。ごめんなさい」
 そこに丸っこい字で書かれている名前――と思しき物と彼女を見比べていると、彼女はそのまま喋り続けた。
「それでそのっ、申し訳ないんですけど、私、来ちゃったんで、その……起きてくれないと困るというか、なんというか……」
 言いながらベレー帽を握り締めてみたり、誤魔化すようにそっぽを向いてみたり、そんなことをしながら時々、なにがおもしろいのか部屋の中を見渡してみたり。
「……で? 俺にどうしろと?」
「ですからその、起きてもらわないと、困るなあ……なんて、思って……」
 最後の方になるほどに尻すぼみになる声、縮こまって俯く彼女。
「ふうん、そう」
 俺は、相変わらず布団に包まったまま、顔の横から右腕を彼女の方に突き出した。
「ほえ?」
 間の抜けた声を上げて首をかしげる彼女。ついついにやけそうにのをこらえて、言ってやる。
「ほら、俺がおきてくれなきゃ困るんでしょ? じゃ、起こしてよ。ほら、ほら」
 あうう、と前髪の向こうの顔を赤く染めて、それでも少しずつ、恐る恐るといった調子で彼女が近づいてくる。
 もう少し、もう少し……。
 そしてその小さな手が俺の指先に触れた瞬間、俺はその細い手首を捕まえて、思いっきり自分の方に引き寄せた。
「ひゃっ……!」
 押し殺した女の子の悲鳴。バフンッと音を立てて波打つ掛け布団。投げ出された小さな体、足の上の軽い体重。
 立ち上がろうとしているのか、掛け布団の上でばさばさともがく彼女を上体を起こして見下ろしながら、俺は思った。
 うん、とりあえず。
 月曜日最高。