[Cube]〜9〜③

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「チェロ、終わりましたよ。制圧完了です」
「はいはい、おつかれ〜」
 ぼこぼこと、凹んだ壁。いくつかは吹き飛ばされ、ところどころ穴の開いた長いす。すっかり荒れ果ててしまった役所のロビーのど真ん中で、辛うじて破壊を免れた椅子に腰掛けて、紫色のマントを身体の脇に放っていたチェロがミンレイの声に答える。
 実際のところ、事件の解決はあっという間だった。到着後、チェロ、ミンレイのペアが正面玄関から、マークが脇の窓から、シーナは天井裏に忍び込んで、突入。図書館本部の手回しで一般警察は建物外壁での警備。あまりに反応が無いので不審に思っていたこともあるのだろう、集中を切らし始めていた実行犯達は半獣二体の前にはあまりに無力だった。
 まるでそうするのが当然であるかのように、最初から決まっていたかのように、正面のドアを堂々と開け放って入ってきたチェロとミンレイ。紫の派手なマントに身をつつんだ、その異常な姿に一瞬呆気にとられて、慌てて銃口を上げたときにはチェロ愛用のハンドガンが火を噴いて、ゴム弾が眉間を直撃している。同時、水平に上体を倒して忍び寄ったミンレイの手で別の二人の身体が宙に舞う。どこかの戦場後で拾ったのだろうか、なおも握られたままのアサルトライフルが天井めがけて閃光を放ち、蛍光灯が割れ、飛び散った破片が床に跳ねる。人質にしていた職員に刃を向けようとした中年男性の身体は背後から放たれたマークのゴム弾で前のめりに倒れる。騒ぎに乗じてシーナも轟音、破壊の只中に飛び降り。そして、あまりにも短い混沌。僅か重病足らずで、二十人ほどの実行犯達は力なく床にひれ伏していた。
「じゃ、適当に外の人たちに連絡入れて〜」
「もう入れました」
 さっすが〜、などと気楽に言っているチェロをよそに、マークもマントを肩から脱いで辺りを見回す。
 床に転がっているのは、本来所有など認められていない銃器の数々。どちらかといえば行きすぎなほどに「武器所持の禁止」が定められている今の世界において、不平をもっただけの一般市民がこれだけの銃器を所有できてしまう。その、異常さ。そして何より、自分がその異常の只中にこうして立っている事実が不自然に感じられて、ひっそりと肩をすくめた。
「ちょっと、マーク、聞いてるの?」
 と、横からかけられた声に顔を上げる。そこにいたのは、走り、跳ねる間に乱れたマントを再び目深にかぶりなおしたシーナ。フードの下から見つめる視線にマークのそれがぶつかると、片手で背後を指差して言う。
「もうここは出るってよ。あとは警察に任せるからって」
「ん、ああ」
「ボーっとしてないでよね、まったく」
 大袈裟にため息をつくシーナに「悪い」と一言謝ると、自分もマントのフードをかぶりなおす。図書館、特にこのような作戦に出向く者はあまり現場で顔を晒すべきではない。もちろん、それは一般市民のみならず警察であっても同じ。早くも隊列を組んで乗り込まんとしている警察の一団とすれ違うように、紫の布を纏った二人は正面玄関から外に出た。